電車の広告で、『□いアタマを○くする』というのが目に入った。日能研の広告で、雙葉中の理科の入試問題からの引用で、要約すると、
≪ 蟻の列を地面に線を引くことで分断すると、線の後の蟻は右往左往してしまう。 この現象の原因を1つ考えなさい。そして、それを立証する実験例を挙げなさい。 ≫ というもの。 (現物は、ここをクリック(日能研の該当ページに飛びます)の<2005年4月雙葉中の理科>を参照。回答例と解説も付けられています) 一読して、確かに四角い頭を丸くする問題だと思った。ただし、○は、□の内接円で、角を矯められ大きさもπ/4に減少されてしまっているが。 最もひっかかるのが<1つ挙げなさい>だ。私は宇宙人に攫われた・・・ではなくアブダクション(仮説演繹法とでも訳すのだろうか、帰納・演繹と並ぶ推論の方法で、仮説から演繹した結果の妥当性により因果を推測する。ただし、他にも様々な考えがある)の訓練のつもりだろうが、いきなり、これはないだろう。 理科とは、試行を重ねつつサイエンス思考・志向・指向・嗜好を育てるもの(ただし、至高にしてはいけないが)だ。もちろん、サイエンスでも最も必要なのは直感力だが、それは科学教育の上級篇(なぜなら、直感は、遺伝子に組み込まれた潜在力に膨大な経験が総合され作られる暗黙知だと思うから)で、基礎編は<誰にでもできる世界を認識する態度・技術>を身につけることだろう。 この例で言えば、設問は「できるだけ多くの原因を列挙せよ」とすべきではないか(もっと言えば、まず、同じような現象が再現するかどうか確認させるのが本筋だが)。 ぼくなら、あえて、この問題を出すなら、引っかけ問題として出す。最も好ましい回答(例)を「同じようなことが起きるかどうか、なるべく同じ条件で観察をしてみます」とする。ついで「いきなり1つだけ挙げろというのは、良くないと思います」の類にハイスコアを上げる。 また、その仮説の検証方法を考えさせるのは非常にいいが、検証そのものの恣意性に思い付かないようになるのではないか? つまり、原因を1つしか考えない(十分に絞った上での仮説という意識ではなく)と言う発想法の押しつけから検証方法もまた、多様な因果が考えられる、ということを看過し、1つに決め打ちしてしまう態度になってしまうのでは? 入試という特殊状況だから問題としては、仕方ないのかも知れないが、それを中学入試と離れて一般向けに麗々しく『□いアタマを○くする』の例として挙げるのは(教育産業の広告なのだが)いかがなものか、少し刺激的に振れば、愚民化(現象を単純化しきって考えるようにする→操作しやすくする)じゃないか、とさえ思えてくる。 日能研のサイトの上記ページに、日能研の見解と回答(例)が示されているが、これだけで判断すると、確かに、愚民化されたような反応だ。教え込まされた思考方法に沿って書かれている。ほとんどの人が言うだろう観点からしか述べられていない。問題の持つ意味に全く疑義を抱いていない(少なくとも、その表現はなされていない)。与えられたものに全面的に帰依し、その神聖にして不可侵なテーマを覚えた・覚え込まされた演繹を展開しているだけだ。まず、仮説を設けることすらなく、それ以前に問題意識(ex.この問題がいい問題かどうか)さえないように思える。コマーシャリズムの結果、マーケット至上主義故の戦術から来るのだろうが、小さく丸め込まれてしまった結果を表し、かつそれを拡大浸透させようとしている。 なお、同ページに、中学入試出題者の「出題者の意図」も載っている。こちらの方は、「生物は自然科学の探究。疑問をもつことから始まり、観察して、仮説を立てて、検証する、という作業の積み重ねだと思います。」というコメントがあり、一連の問題の最後だということなので、問題列を追っていくと、この意図が反映されているならば、悪くはない。少なくとも、<積み重ね>と言うのが、1つの疑問に対する仮説-検証の積み重ねをも意味するならば・・・しかし<1つ挙げなさい>という表現から、それを窺うのは難しいのでは? この理科の入試問題を通して眺めてみる、という意欲も気力も体力もないし、単なる通りすがりの無教育者が、それについてコメントするのは危険だし迷惑を掛けることにもなりかねないので、言うべきではないのだろうが、それでも、この入試問題から、教育と言うものが、鋳型による大量生産・Governablityのための愚民化というのが透けて見える・・・言ってしまった!(←しかも、少数の観察例で全体を言い、かつ全く検証もしないのは、サイエンスの正反対な態度、というより、人間として全く誠意のない態度だが、いいんだ、このBLOGでは)
by yasumim
| 2005-04-18 18:55
| ナマクラ・ツッコミ
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