もっとも有名な北野たけし監督の映画ではなく、有名なエレア派のゼノンのパラドクスでもなく、あまり知られていないルイス・キャロルのアキレスと亀。What the tortoise said to Achillese 。
たけし氏のお陰で、 何かの本で読んだのをことを思い出した*1。 読みたくなったので、Wonderlandしか読んでいない The Complete Illustrated Works of Lewis Carrolをパラパやってみたが、見あたらないしProject Gutenbergにも収録されていず、ひょっとしたらガセかと思った。で、WEBサーチかけたら、どんどん出てくる(digital text international 版他)。中には、翻訳まで付いていた。「亀がアキレスに言ったこと」(ルイス・キャロル著永江良一訳)*2 。 1895年にMindに発表された論理学の論文だったから、Fiction の全集には収録されていなかったのだろう。しかし、Mind誌、このような書き方の論文を載せるとは、凄いなぁ。 詳細は読んでいただけば分かるが(非常に面白いですから、是非。そして、原文もどうぞ。翻訳の苦労と楽しみが分かり、飽きlessです)、エッセンスをぼく流に変形して言うと、 <三段論法(大前提Aが真・小前提Bが真→結論Zは真)のなぜ結論を引き出せるのか(→に当たる部分)が理解できない> ということになる。 これは、三段論法が正しいものと認める、と言う規約を受け入れたとしても、 <[三段論法が真、Aが真、Bが真→Zが真](以下、C)はなんで正しいのか分からない> Cを正しいと約束したも、だからといって、 <[三段論法、A、B、C→Z]が正しいと、どうして言える> と言う無限後退が生じる。 前にも書いた と思うが、ぼくが、なぜ、 <1+1=2になるのか不思議だ> と言ったのと同じ感覚だ。 1+1=2、そういうものだよ、と言われれば、ハイ分かりました、と言うが、だからといって、2+1=3になるのが分かるわけではない。 数学的帰納法、と言う証明法を聞いたとき、呆れた(感心したとも言えるが)あの不思議さが蘇る。 まあ、これには、いろいろな解決法があるのだろう。メタ論理(規則)と論理を混同している、とするのが、一見、それっぽくて、なんとなくそれで納得しやすい(たぶん、ラッセルのタイプ理論。←かなりいい加減ですので、黙って受け流してください)が、最終的には、これこそが「語り得ないもの」であり、理性がもの自体の世界に要請したもの、とならざるを得ないのだろうな(←もちろん、ぼくは哲学の研究者でも、ディレッタントでもないので我田引水的に流用しています)。 *1 永井均氏の「ウィトゲンシュタイン入門」(ちくま新書1995年)じゃないかと今思い出し、引っ張り出してみた。ビンゴ! キャロルの原文とはかなり書き方が違うが、言いたいことは同じである。で、ウィトゲンシュタインは前件肯定式を法則として建てること自体が意味がないと言っている。 また、これに釣られて宗宮喜代子氏の「ルイス・キャロルの意味論」(大修館2001年)も読んでみた(これもなかなか面白い。Carrolも読みたくなったし)。こっちの方は、イメージは近いが、(Alice2部作から主に話題を取っているので)真実と信念の混同、ということで軽くいなしている感じだ。後にヴィトゲンシュタインをも取り上げているので、意味は用法という後期の観点から再度明示的に取り上げるべきだったと思う。 一方、野矢茂樹氏の「ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』を読む」(哲学書房2002年。2006年にちくま学芸文庫に収録。この本は、題名に偽り無しで、論理哲学論考を読む上で、かなり参考になった)では、キャロルの名前は一切出ずに、このパラドクスのエッセンスが出ていた。(余談ながら、野矢氏は、ウィトゲンシュタインは、後期ではなく、既に『論考』から、通常の規約主義には収まらない発想をしている、としている。つまり、この時代からして、既に論理実証主義ではなかった、ということ)。 更に、蛇足に爪を生やすと、ちくま新書の裏表紙の永井氏が若いなぁ、というよりこのイメージがあったので、この間は、ぼくより年上に見えた!?(ぼくが幼いのだが)のが意外だった。それにしてもシンクロニシティをこのところよく感じる。 戻る *2 「杉田玄白プロジェクト。今まで気がつかなかった。”あの”山形浩生氏がやっている。Gutenbergや青空文庫の日本語翻訳版だ。 余計なお世話を承知で言うと、今までの翻訳に苛立っている人や真摯な翻訳家志望の方は是非お立ち寄りを! 戻る
by yasumim
| 2008-09-21 15:46
| 幻想肯定と妖気扉
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